22歳の春、私はフランスのモンタルジーへ
ステンドグラスの絵付け留学へと行きました。
全国各地から8名の参加。
そこで作ったのが、このパネルです。
ガラスに絵を描いて、窯で焼き付けます。
当時私は、ステンドグラスの制作会社で働いていました。
独立しようか・・・どうしようか・・・と悩んでた時期です。
当時のその会社は、公共施設がメインでしたので、一般住宅のお仕事は
お断りしてたんです。
確かに、そこまで手が回らないのは現実で
でも、欲しいと思ってる方へ作れないジレンマがありました。
でも、22歳なんて、まだ世の中もわかってなくて、不安しかなくて。
会社でも、当時私は主任をしてましたので
辞めたら困るかなぁとか、いろいろと悩んでいたんです。
で、絵付けも、自分でやってはみてたけど
書籍を見たって、いいんだか悪いんだか。。。分からない状況でした。
でも、ステンドグラスをやってるんなら、絵付けは身につけておきたかったんですよね。
教会のステンドグラスの修復や、新たに作るとしても、やはり
絵付けは重要になってきます。
人物の顔、服の影、こういうものは、通常のステンドグラスだけでは
どうにも表現しきれません。
そんな時に、日本人の先生がフランスにも工房があり
留学を企画されたんです。
「これは!」と、行きましたね。
留学費は自己負担でなら、行ってもかまわないと
会社からお許しをいただき、2週間行ってきました。
とても短い期間でしたが、ほぼ毎日制作の日々でした。
窯にガラスを入れたら、焼いて冷めるまでの時間が空きますので
その間に、いろいろな教会を見に行ったり、パリ見学をしたり
お城にも泊まってみたり。
やはり、実際に目にして、習うのは、違いますね。
感覚を覚えれます。
ステンドグラスの絵付けは、キリストなどの顔だけか?というと
そうでもないんですよ。
パネルの中のデザインの1部としても使えます。
鳩も絵付けが入ってます。
ステンドグラスだけでは、表現しきれないものを作れるんですよね。
このような
ワンポイントとしての絵付けは、たまにしてました。
このようなテーブルなども。
キリスト系の学校でのお仕事でも、部分絵付けだったんですよね。
天使と花だけ。など。
全体に入れると、暗くなるというのも、原因ではあるんですけどね。
例えばこちらです。
札幌藤女子中学・高等学校 礼拝室 2006′
でも、やっぱり全面絵付けのステンドグラスもたまには作りたいなぁと
去年、ミュシャの絵を模倣しました。
題材に選んだのは、この絵です。
制作行程を少しご紹介。
【道具たち】
筆が数種類です。
あとは、グリザイユという線と影用の絵具と
エナメルという色を加えるための絵具があります。
どちらもガラスの粉の絵具です。
【線を描きます】
グリザイユという絵具を使います。
線は、ワインビネガーで溶きます。
水よりも、定着がよいです。
このワインビネガー。
私は初めてフランスで出会いました。
お酢ですので、お酢の匂いが工房に充満します。
この匂いをかぐと、私はフランスでの工房が思い出されます。
気持ちがスッと、引き締まります。
線は下絵に沿って描きます。
筆跡も素晴らしい表現となりますので、あまり均一な線でなくても大丈夫です。
ここで、一旦焼き付けます。
(フランスでは、ここで、ステンドグラス見学へのお出かけですね^^)
【影を付けます】
こちらも、グリザイユを使います。
線は黒を使いましたが、影は茶の絵具にします。
絵具は混ぜて使えますので、気に入った濃さになるように
黒と茶を混ぜたり、茶と白を混ぜて薄くしたりなどできます。
混ぜれるのは、グリザイユはグリザイユ同士。
エナメルはエナメル同士です。
焼く温度も違いますので、グリザイユとエナメルを混ぜる事はできません。
そして、水で混ぜます。影は水・線はワインビネガーです。
お忘れなく。
ちなみに、エナメルも水です。
日本画で使う筆に、タップリとしみ込ませ全面に絵具をのせ
バジャーブラシで綺麗にならします。
こんなブラシ。
バジャーブレンダー
結構なお値段のするブラシです。
豚の毛だったかな?
なんか動物の毛だと聞いた覚えがあります。
こんな感じに均等にします。
均一にする時も、はじめの含ませる分量やバジャーブラシの
動かし方で定着の量が変わりますので
同じ部分のガラスは何枚かまとめて、一緒に作業するといいですね。
この均一にする作業。
なかなか熟練の技が必要となります。
ならしがあまいと、水が溜まった感じが残り
もたもたしてますと、ブラシの跡が残ります。
上下左右、斜めも駆使して、うっすら均一にします。
最初に乗せる絵具の量も関係します。
ひたすら、練習あるのみですね。
【影を残す】
ステンドグラスの絵付けというのは、普通の絵と違う部分は
この部分だと私は思っています。
普通は、影は足していくものですが
ステンドグラスの場合は、均一に塗ったものから、必要無い部分を剥がします。
グリザイユなどは、ガラスの絵具なので、乾くと粉状になるんです。
焼く前に間違えて少し触れただけでも、取れてしまいます。
おおまかに、全体を先に剥ぎます。
次は、細かく剥いで行きます。
そして薄く残したい部分は、ステップラーでポンポンと真上から叩いて
浮かせていきます。
浮いた粉は、ふーっと吹き飛ばします。
もう、絵付けしてる時は、顔中茶色くなりますよ。
粉が舞いますのでね。
それも楽しみながら、ポンポン叩いてはフーです。
影は、2回、3回と焼いてはまたつけ、焼いてはつけを繰り返します。
1回では、焼くと色も飛びますし、ムラのない状態にはなりません。
何回も焼くのなら、ポンポンしなきゃいいじゃないか
と、思うかもしれませんが、このポンポンして粒子にするからこそ
影だけど光りを通すんです。
なので、本当の闇の部分は、塗りつぶしたままで仕上げます。
全体です
原画を大事にして、影は緑がかるようにしてます。
で、剥ぎました。
焼く前なんで、白っぽいですが、焼くと艶がでます。
裏にも影を入れると、深みが増しますよ。
ガラス厚み分があるので、影が重なったような感じになるんです。
今回はしませんでした。
【顔】
どうでしょうかね?
線も、黒にしないで、緑を混ぜています。
影も薄く。
頬の赤みで立体的に。
など注意しました。
【完成】
80点です!
首と髪の毛は、顔と一体にするべきだったかなぁと思います。
線が多くて、目障りかなぁと思いました。
次回、違う絵でリベンジしたいなぁと思ってます。
色が床に映す輝き。これこそ、ステンドグラスの醍醐味です。
ガラスだからこそ、なせる技です。
でも、制作段階では、ここまでは計算できないんですよね。
これは、偶然の産物として、楽しむのがいいなと思います。
【人生の選択】
私は、フランスに行ってよかったと思います。
日本人の団体ではありましたが、知らない人ばかりで
年齢も様々。
街に出れば、外人ばかり。
買い物するにも、言葉も通じない。
そんな中にいると、制作会社での悩み。独立への不安。
それらは、とてもちっぽけな事に思えました。
知らない人、知らない土地。
そこでは、自分は独りなんだなと思いました。
今まで積み上げた事、築いた人間関係。
そんなものは、持って来る事もできないんだなぁと。
そして、周りはとても優しいんです。
知らない人にでも、優しいんです。
「どこでも、やっていける。そして、生きていける。」
そう思いました。
そして、たぶん、新たな技術を身につけれた事も大きかったと思います。
自分で覚えた事、経験した事は、ちゃんと自分の中に蓄積されます。
帰国後、私は独立しました。
あれから18年。
順風満帆ではなかったけども、拙い絵付けの技術も
自分なりに進化させていきました。
フランスでの先生は、フランス人の作家さんも呼んで
制作を見せてくれたりもしました。
人それぞれで、表現方法がまったく違う事にも驚きました。
手段は一つではないんです。
絵画だって、人によってタッチが変わります。
自分なりの絵付けを見つけるように、他の作家さんを呼んでくれたのかなぁ。
そして、私はフランスが大好きになりました。
朝の焼きたてのフランスパンの美味しさ。
羊のチーズの味。
石畳の町並み。
私は、今でもフランスに恋い焦がれています。
いつか、また行きたい。
そこで、生活したいと思います。
それも、私の夢の一つとして、大切にしてます。
22歳の私。先生と一緒にフランスにて
(2015年/10月更新)
今井
12月 17, 2016 at 11:24 am
な~んか、かっこいいブログ書いてますね~
今、いろいろコンテンツを精査してましたが、このブログ、かっこいいっすわ~←なんか軽いですけど(笑)まじめな話(ーー゛)
今度、学生紹介するので講演みたいのお願いできないですかね~?
vitrail
12月 19, 2016 at 12:29 pm
ありがとうございます^^
人前で話せるかなぁ?
グダグダでよければ♪
会沢久江
9月 3, 2018 at 9:04 am
読まさせて頂き、とても勉強になりました。これから絵付をやるのですが、参考にさせていただきます。
vitrail
9月 14, 2018 at 4:53 pm
コメントありがとうございます。
ぜひチャレンジしてください。
中嶋弘子
9月 1, 2019 at 4:40 pm
私は硝子絵付け年に一度出品の為描いていますが意外と難しいですよね!
本当にブログの内容が全てが頷けることばかりで勉強になりました。
ありがとうございました。
vitrail
9月 2, 2019 at 9:04 am
ありがとうございます!
絵付けは奥が深いですよね。
もっと回数を重ねて勉強しなくては。と思います。
Shigemokkori
3月 5, 2020 at 1:04 pm
長年の疑問が解けました!
何度かドイツに行って、教会のステンドグラスを観たのですが、ステンドグラスって色ガラスのピースを繋げて作るのに、顔とか影をどうやって表現しているのか判らなかったのです。このブログを見てようやくその手法が判りました。
私はアーティストでも趣味の作家でもないただの機械設計技術者ですが、こういった知識がどこかで仕事やプライベートのヒントとして活かされると信じて、様々な業界を除くのが趣味です。私の中で新しい知識が開かれました。
はんだ付けなどはたまにやりますので(配線関係ですが)、ステンドグラスにも興味が出てきました。絵付けまでは難しそうですけれど。
vitrail
5月 8, 2020 at 9:00 am
かなり返信遅れてすみません。
長年の疑問がとけてよかったです!
私もいろいろな業種の方のあれこれ、気になります。
わくわくしますよね。
Sachie ledey
1月 23, 2021 at 3:49 am
こんにちは
はじめまして
私もここの学校に行ってみようと思っています。
ここのトライアルコースでこの1番上の写真の作品を作ることができたのでしょうか??
vitrail
3月 2, 2021 at 4:36 pm
20年も前なので、現在も同じ内容かは分からないのですが
私はこの留学で1番上の作品を作って帰ってきました。
P.Y.Hirose
6月 23, 2021 at 5:30 pm
素晴らしい内容でした。フランスでの短い期間の留学も密度の濃い思い出ですね。富山聖マリア教会の建築に携わり、英国から寄贈されたステンドグラスを間近に見て関心が深まりました。北陸にお出かけの際は是非お立ち寄り下さい。
vitrail
8月 4, 2021 at 12:51 pm
コメントありがとうございます。
ぜひ行ってみたいです。
あきお
2月 20, 2024 at 1:23 pm
いつも参考にさせて頂いております。
ご質問させてください。
黒のグリザイユをベタ塗りして焼成すると、いつもひび割れてしまいます。
薄く塗れば多少防げますが透過してしまいます。
光を全く通さないくらい真っ黒でひび割れず綺麗に塗るには、何かコツがありますでしょうか?
上の方の画像の、文字だけの絵付けのような感じにしたいです。
vitrail
4月 26, 2024 at 2:47 pm
お返事おそくなりました。
一気に温度を上げすぎなのかな?と思いました。
1時間で270℃づつ上がるように焼いています。
それも問題ないのであれば、面倒ですが、薄く塗って焼いて
また薄く重ねて焼くといいかもしれません。
絵付けをしてて割れたことがないので、はっきりしたお返事できず申し訳ございません。