よく人に言われる事で、「たくさん作って、売ればいいんじゃない?」というのがあります。10年もやっていると、いろんなお話をいただきます。
お土産屋さんに卸してみないかい?というお話を頂いた事もありました。北海道では、小樽のステンドグラスは結構知られています。
しかし、くわしくお話をうかがうと、「300個~500個作って納品する」という事でした。そうなってしまうと、延々と同じ物を作る事になります。人を使って、作れば良いと言われますが、それは嫌なんです。
昔、ステンドグラスの制作会社に勤めていた頃、私は「主任デザイナー」なんて偉そうな肩書きを持っていました。仕事の内容といえば、デザインをして、建築屋さんやお客さまと打ち合わせをして、制作の人達(3~4人いたかな?多い時で7~8人はいました。)に、技術指導と、日程の調整をしていました。
自分がデザインしたものを、制作の人が作って、取り付ける。「素敵なものができたね。和泉さん。」「すごいねぇ」なんて言われても、なんだかしっくりきませんでした。
何か、人に伝わるような物を作るには、自分で全ての行程を手掛けて、納得いくものを作らなくてはいけないのではないか?と考えるようになり、「これではいかん!」と思い、おもいきって独立しました。
そういう経緯もあり、人を使って制作していく事に対して、ちょっと考えるところがあるんです。それに、100個・200個と作っていると、「ちょっとここのハンダの部分良くないんじゃないかな?」とか「あら?ガラスに傷が入ってた。」となったときに、「まぁいいか。100分の1個じゃん!」なんて気持ちになりそうな所も嫌です。
よく売っているステンドグラスを見て、けっこう雑な作りでビックリする事もあります。
それは、きっとそういう心理状態で作られているのではないかなと思います。きれいなハンダ付けなどは、自己満足みたいなものかもしれないですが、私はそういう部分にこだわっていきたいです。あくまでも、職人でありたいと思っています。
20個・30個の注文は受けていますが、そんな数でも「まぁいいか。」という気持ちになりそうな時があります。
そんな時は、「自分にとっては30分の1個でも、受け取る人は1個だけなんだ。」と思うようにしています。その1個を受け取った人が、心を込めて作った何かを感じてくれたら嬉しいなぁと思います。1個1個、手にした人が喜ぶ顔を想像しながら作るのが、手作りの良さだと思います。
何かを食べて「おいしい。」と思う、何かを見て「きれいだなぁ。」と思う瞬間というのは、幸せな時間だと思います。感動なんておおげさな事ではなく、「きれいだなぁ。」と思ってもらえる。私の作った物で誰かがちょっとだけ幸せを感じてくれる事が、私はとても嬉しいです。
その初心を忘れないでいたいです。
(2003年/4月メルマガより 2003年/12月更新)